山口 晃代表取締役

　松本工業高校を卒業後、諏訪市にある大手メーカーで働き、その後2社へ転職して経験を積み、人間関係を構築した上で、2000年に自動車部品やカメラ部品として使用するプラスチック用金型設計業として当社を設立しました。設立当初はアパートの一室から事業を始め、地道な営業活動を続けてきました。
　2008年、大きな壁が立ちはだかりました。当時プラスチック用金型製造の下請けとして営んでいましたが、リーマンショックによって受注が激減したのです。このままではいけないという危機感と、創業当時に掲げた「10年経つまでに元請のメーカーになる」という目標を達成したいという想いから、この状況を転機と捉え、新しいことを始めようと考えました。
　まずは都内のメッセやイベントへ出向き、不況下でどの業界が盛り上がっているのか、肌で感じることにしました。そこで目にしたのは、フィギュアやHOゲージ、プラモデルなどのホビー商品が、どんどん売れていく光景です。10万円以上のお金を財布に入れて来場し、値段を気にせず並んでまで購入していく様子を見て、ホビー市場の将来性を感じました。私自身はアニメに興味が無かったのですが、長野県内にホビーメーカーはなく他社と差別化が図れる市場であることや、それまで金型設計、製造で培った精密さという強みを発揮できると感じたことから、参入を決意しました。決意した当日に東京へ行き、設計者や問屋とネットワークがある人、商品企画できる人など、新たに5人を新規採用しました。このまま既存事業にしがみ付いていてもいずれ海外へ仕事が流れてしまうので、やるしかないという気持ちでした。

　新しい市場に参入する際、2つのことを意識しました。1つは、地元から推してもらえる会社になることです。誰も知らない当社のホビー事業を軌道に乗せるためには、知名度を上げる必要があります。地元の方に知ってもらい地域一体となって営業、宣伝を行っていくことで、当社単独で営業するよりも多くの人に当社の商品を知ってもらう機会が増え、記憶に残りやすくなります。もう1つは、自社ブランドを立ち上げ、商品企画から手掛けるオリジナル商品を販売することです。オリジナル商品は、定価を自分で決めることができます。下請けとして量産型製品の製造を行っていると、どうしても他者との価格競争で薄利になってしまいます。当社で定めた価格で販売し、その価格をお客様に納得してもらえれば、物価高などの影響があっても利益を確保することができます。
　この2つの考えから、まずは「高島城」のプラモデルを企画、販売しました。しかし、他の国宝のお城に比べるとインパクトが弱く、これだけではうまくいきませんでした。そこで地元のご当地キャラクターを制作し、一緒に販売することを考案しました。こうして誕生したキャラクターが、「諏訪姫」です。これが大ヒットして、事業が軌道に乗り始めました。
　今ではKADOKAWAや小学館、バンダイナムコから版権を借りながらキャラクターグッズを制作できるまでに事業が拡大しました。グッズの細部まで精密に作っている点をファンの方にも評価いただいており、当社の「PMOAブランド」が徐々に浸透しています。そのおかげで、昨年はコロナ禍でありながら業績を伸ばすことができました。

　アパートの一室から始めた当社も、今は自社ビルを構えて社員を40名ほど雇えるまで成長しました。創業当初から常に考えていることは、「20歳から50、60歳まで社員全員が楽しく働ける会社にしたい」ということです。今、こちらから採用活動を行わなくても学生から入社を希望してもらえることが増えています。それは県内出身の学生に限らず、移住を希望する学生もいます。こうした流れも、県内唯一のホビーメーカーであることから生まれています。若い従業員が仕事にやりがいを持って活き活きと働ける、ベテランの従業員も刺激を受けて学び続ける、こうして社員全員が楽しく働ける会社を目指しています。会社の成長とともに、長野県内、諏訪圏内にエンターテイメント文化を普及させていくことが、これからの夢です。